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東京地方裁判所 昭和50年(ワ)2160号 判決

原告

古田實

外二四名

右被告ら訴訟代理人

川尻政輝

右訴訟復代理人

長谷則彦

被告小野みつ子補助参加人

株式会社小林工務店

右代表者

小林敏男

右訴訟代理人

森三千郎

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実《省略》

理由

一請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二当事者間に争いのない事実の外、〈証拠〉によると以下の事実が認められる。

1  高層センターは昭和四四年初め頃本件マンシヨン建築を計画し、被告小野の紹介によつて本件土地を訴外岡島武から購入し、同年五月頃から本件マンシヨン内に建設予定の専有部分の分譲受付を始めると共に同年六月二一日本件マンシヨンにつき建基法六条一項による確認(以下「建築確認」という)申請をなし同年八月二七日右確認を得て本件マンシヨンの建築に着手したが、右確認申請書(〈証拠〉)によると、一階部分は一階共用部分及びポーチの外は駐車場とされ、二階ないし七階に各四戸、八階に二戸の区分所有の対象となる専有部分が存することとなつていた。

2  高層センターは昭和四五年三月一〇日には公道から一階共用部分に至る通路及び集合郵便受けのある部分(本件係争部分から係争建物部分及び駐車場部分を除いた部分。以下「本件ポーチ」という。)、一階共用部分、二階ないし七階の各四戸、八階の二戸の区分所有建物、各階を通じてのエレベーター室と階段部分を完成させたが、右時点では一階共用部分は後記開口部を除いて四方を隔壁にとり囲まれ、公道から右共用部分に至る本件ポーチと一階のその余の部分とは約一〇セントメートルほどの段差があり、その境界には煉瓦が並べられ、本件ポーチには化粧タイルが貼られてその余の部分と区別されており、一階共用部分玄関にはガラスドアが、また、右共用部分の西側と南側には各鉄扉が取付けられ、上記以外の部分はコンクリートの床で、二階以上を支える一辺の長さ概ね八九センチメートルの柱一一本のみの存在する吹抜けの空間となつていた。

3  昭和四五年三月二四日、世田谷消防署により一階の自動火災報知設備の検査が実施されたが、高層センターが右検査のため同月一七日東京消防庁消防長宛提出した防火対象物使用届出書(〈証拠〉)添付図面(〈証拠〉)によると、一階は一階共用部分とポーチ及び一階共用部分の西側に守衛所が設けられていることになつていた外はカーポートと表示されていた(もつとも、実際には当時一階に右守衛所は設けられていなかつたから、右図面は正確とはいえない)。

4  昭和四五年四月二日、高層センターの申請により本件マンシヨンにつき表示の登記(一棟の建物の表示)がなされたが、その際の本件マンシヨンの床面積は一階21.12平方メートル、二階ないし七階各210.54平方メートル、八階127.25平方メートルと表示された。

5  原告らは高層センターから二階ないし八階の専有部分を逐次購入し、別紙区分所有者目録該当欄記載の頃に各専有部分の表示の登記及び所有権保存登記を了した。

6  被告小野は高層センターの本件土地購入につき尽力した謝礼として、昭和四四年四月二二日高層センターから同社が本件マンシヨン一階部分に将来建築することを計画していた住居部分(38.80平方メートル)と店舗可能部分(43.74平方メートル)(代金は併せて七五〇万円相当)を代金二五〇万円で買い受ける旨の契約をした。なお、本件マンシヨンの分譲に際して宣伝用に頒布された高層センター作成の当初のパンフレツトのなかには、一階にも分譲予定の専有部分がある旨表示されたもの(乙第二八号証)もあつたが、右部分は他の専有部分の分譲に先立つて被告小野に売却済となつたとして、後のパンフレツト(乙第二九、第三〇号証)の記載からは抹消された。

7  本件マンシヨンの建築工事は高層センターが補助参加人株式会社小林工務店(以下「小林工務店」という。)に請負わせたが、高層センターは建築に着工した当初から一階部分に居宅を建築する計画であることを小林工務店には説明しており、小林工務店は本件マンシヨンが前記2の程度に出来上り、3の消防設備検査の終了した後に引き続いて本件居宅の建築にとりかかり、一階のうち、別紙図面(1)と(2)の間、(4)と(5)の間、(7)と(17)の間に天井まで達するブロツクの隔壁を設け、これらと一階共用部分の西側の鉄扉及び壁を利用して空間を囲み、昭和四五年五月末頃本件居宅を完成させた。

本件店舗及び事務所は本件居宅完成に引き続き高層センターの注文により訴外株式会社国際建設が請負い(工事費が格安であつたため被告小野の希望により施工業者が変更された。)、別紙図面中(9)と(10)の間、(12)と(14)の間にそれぞれ天井にまで達するブロツクの隔壁を設け、(16)と(17)との間にシヤツターを設置し、これらと前記(7)と(17)との間の隔壁で空間を囲み、昭和四五年六月末頃本件店舗、事務所を完成させた。

8  被告小野は本件居宅及び本件店舗、事務所の完成後高層センターからその引渡を受け(なお本件居宅は設計が中途で変更されたことにより、当初の契約より約3.3平方メートル広くなつたので、被告小野は昭和四五年七月一六日高層センターに差額一〇万円を支払つた。)、昭和四五年七月二九日、本件マンシヨンの表示の登記(一棟の建物の表示)のうち一階部分の床面積を21.12平方メートルから155.41平方メートルと改め、同日係争建物につき表示の登記を、同年八月三日右建物につき被告小野の所有権保存登記をなした。

9  高層センターは、本件マンシヨンの分譲を開始した当時、他にも都内三、四カ所に同社の管理すべきマンシヨンがあり、本件建物の駐車場部分に巡回管理の拠点たる事務所(管理部センター)を置いて管理を効率化することを計画していたため、専有部分の購入者との間で売買契約を締結する際にも、敷地について別途賃貸借契約(〈証拠〉)を締結し、その対象土地につき「駐車場部分を除く。」と明記し、被告小野との前記6の係争建物売買契約につき昭和四五年二月一〇日作成した契約書(〈証拠〉)においても対象物件の敷地の表示として「敷地賃借権(331.14平方メートル)。但し駐車場部分を除く。」と記載し、高層センターが昭和四五年四月一日各区分所有者と締結した本件マンシヨン管理請負契約(〈証拠〉)においても対象物件の敷地の表示として「敷地330.67平方メートル賃借権。但し駐車場部分を除く。」と記載して、各区分所有者に対しては駐車場部分は高層センターが自己の利用のために分譲の対象とはせずに留保して、区分所有者の専有ないし共有対象からはずす趣旨を明示していた。

10  ところが、本件マンシヨンが2の程度に完成した後も、駐車場部分に管理部センターを設置するのは一年以上後になる予定であつたため、高層センターは当分の間右部分を駐車場として区分所有者らの利用に供することとし、昭和四五年五月中、区分所有者で駐車場使用を希望する者との間で駐車場賃貸借契約を締結した(なお、原告らは駐車場使用料金は本件マンシヨンの管理費に充当されるものと考えていたというが、右賃貸借の契約書(〈証拠〉)においては駐車場部分の使用料金は貸主である高層センターが取得することになつており、これが区分所有者らの収入となり、本件マンシヨン管理費に充当されることを窺わせるが如き記載はない。)。

そして、被告小野は昭和四六年一一月五日株式会社グリーンパーク(高層センターが商号変更したもの)との間で、同会社から本件マンシヨンの敷地330.67平方メートル(但し登記簿上の面積、また駐車場及び庭を含む)を代金六〇〇万円で買受ける旨の契約をなした。

11  原告ら本件マンシヨン区分所有者が本件マンシヨンに入居したのは昭和四五年四月から六月にかけてのことであつたが、その後二年余を経過した昭和四七年七月に駐車場部分の権利関係について原告らと被告小野の間で紛争が起こり、これを機縁として被告小野の係争建物が法定共用部分に建てられたものではないかとの疑いを生じたが、それ以前は区分所有者らの間では格別右のような疑問はもたれなかつた。

〈中略〉

12  ところで、高層センターは前記1のとおり、本件マンシヨン一階は一階共用部分、本件ポーチ及び駐車場部分として、建築確認申請をしたのであるが、昭和四四年当時本件マンシヨンの建築されている地域は建基法上の第四種容積地区にあたり、右地区内での建築物の容積率は四〇〇パーセント以下に制限されていたが、高層センターの前記建築確認申請書によれば本件マンシヨンは一階部分が前記のとおりの構造であつても容積率は制限ぎりぎりの三九七パーセントとなつており、仮に一階に区分建物を増築するとしても当時においては15.42平方メートルの範囲内でしか建基法上認められなかつた(なお本件地域の容積率は昭和四八年一一月二〇日以降三〇〇パーセント以下と改定された。)ので一階に係争建物を建築するとして建築確認申請をなしたのでは建築確認を得ることができなかつた事情にあつたし、後日係争建物のみにつき建築確認申請がなされた事実も見当らない。

〈証拠判断略〉

三右二において認定した事実によると、係争建物の建築は高層センターが本件マンシヨンの建築を計画した当初から予定されており、実際上も他の専有部分の建築に引き続いて高層センターによつて建築されたのであつて(本件マンシヨンの区分所有者らも少なくとも昭和四五年六月頃から二年余の間は右部分は被告小野所有の専有部分として存在することを了解していた)本件マンシヨン一階部分は係争建物をも含めて建築完成されたものと解するのが相当である。

1  原告らは、本件マンシヨンは一階を一階共用部分の外は、二階以上を支える柱と吹抜けの空間で構成されたいわゆるピロテイとして完成されたものであり、係争建物の所在部分もピロテイの一部として法定共用部分であると主張し、その根拠として、係争建物が建基法違反の建築物であること、本件係争部分は火災等の場合の避難、消防上必要な通路、空間の役割を果していること、本件係争部分には構造上本件マンシヨン全体の利用、保安、管理等に不可欠な共用設備が設置されており、他方係争建物には専有建物として利用するために必要な専用設備が合法的には設置されていないことを指摘する。

しかしながら、或る建物部分が区分所有法三条一項の共用部分に該当するか否かは、それが、構造上及び利用上の独立性がないか否かによつて決するのが相当であるところ、係争建物がそれ自体構造上及び利用上の独立性を具備し、区分所有権の対象たるべき専有部分であることは上来認定の事実に照して明らかである。

2 係争建物がその建築について建築確認を得ていず、かつ建基法による容積率制限に抵触するため右確認を得る見込のなかつた建築物であつたことは二、12において認定したとおりであるが、かかる建基法違反の建築物であるからといつて直ちに私法上も右建物が専有部分として存在し得ないものとはいえない(建基法違反行為については関係行政庁による違反是正方の行政措置によつて解決されるべきである。)から、右の点についての原告らの主張は理由はなく採用し得ない。

3、4、5 〈省略〉

6  以上の次第で、係争建物は構造上も利用上も独立性を有する本件建物内の専有部分として完成されたものであり、従つて本件マンシヨンの法定共用部分を構成するものではないというべきであるから、原告らの請求の趣旨第一ないし第四項の請求は、その余の点につき判断を加えるまでもなく、失当として棄却されるべきである。〈以下、省略〉

(佐藤安弘 島田周平 高林龍)

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